研究概要 |
本研究はICRマウスの交配実験から新しく見っかった甲状腺機能低下症を示す矮小マウスの表現型の解析と原因遺伝子の同定を目的とした。 新規矮小マウスは成長障害、貧血、甲状腺腫を伴う甲状腺の腫大が見られた。矮小マウスは正常マウスと比べ、血中甲状腺刺激ホルモン(TSH)濃度が増加し、甲状腺ホルモン(T3,T4)濃度が減少していた。この特徴はヒトの甲状腺機能低下症に酷似しているため疾患モデルとして有用である。 次に、矮小マウスの原因遺伝子を同定するために遺伝子のマッピングを行った。異常形質の保因個体であるICR No.8と近交系C57BL/6JJc1を交配して得たF1個体同士の交配により、F2矮小マウス67匹を得た。この異常個体を用いてマッピングを行った結果、矮小形質遺伝子は第12染色体上の約13cM付近のD12Mit136に強く連鎖していることが明らかになった。この領域には候補遺伝子として甲状腺ホルモンの合成に必須である甲状腺ペルオキシダーゼ(Tpo)が存在するので、矮小マウスのTpo遺伝子のシークエンスを行った。その結果、矮小マウスではTpo遺伝子の1508番目のCがTに置換しており、アミノ酸480番目のArgがCysに変わるミスセンス変異が確認された。矮小マウスのTPOはウェスタンブロットにより確認できたが、その酵素活性は見られなかった。これらのことから、矮小マウスはTpo遺伝子のミスセンス変異により酵素活性のないTPOタンパクを産生する。この酵素活性の欠損のため甲状腺ホルモン合成ができずに甲状腺機能低下症を引き起こすことが示唆された。代表者らが見出した新規矮小マウスはTpo遺伝子異常の初めての突然変異マウスである。
|