本研究では、糖鎖を結合した高分岐型ポリロタキサンを合成し、3次元方向のCD運動性と糖鎖多価効果との関連を見出すことを目的とする。本年度は、高分岐型ポリロタキサンを調製するための骨格構造として、CD分子を両末端に有するポリロタキサンを合成し、その構造解析と分解に伴う超分子構造の解離を定量した。βCDを用い、ポリプロピレングリコール(PPG)とポリエチレングリコール(PEG)の共重合体(プルロニック)との包接錯体の両末端にαCDをシッフ塩基を介してキャップし、酸性条件下での加水分解に伴うCDの放出を蛍光色素包接による蛍光強度の増大から評価したところ、シッフ塩基が加水分解し、ポリロタキサン中のβCDが放出され溶液中の蛍光色素と包接錯体を形成したことを示していた。末端にCD空洞部が露出していることから、CDのゲスト分子を有する二官能性分子との包接による3次元組織体の調製が可能になると考えられる。 一方、ポリロタキサン中のCD貫通数を種々に変化させる調製方法について検討し、貫通率が25-60%程度まで制御することが可能となった。そこで、これら貫通数の異なるポリロタキサンにマルトースを導入し、その分子運動性とコンカナバリンA(Con A)との結合・解離速度へ及ぼす影響を検討した。NMR解析の結果、貫通率38%のときにCDおよびマルトースの運動性が最も高く、それに反比例して軸分子であるPEGの運動性が低下した。このことは、水中での糖鎖、マルトース、PEGそして水分子間の水素結合ネットワーク構造を動的に変化させる最適な超分子構造の存在を示しており、事実、水の構造解析からは貫通率38%のときの水のクラスター構造が最も崩壊していることが示された。このマルトースの運動性に比例するかのごとくCon Aとの結合速度定数も大きくなったことから、糖鎖の分子運動性を柔軟に保つ3次元構造制御によって糖鎖分子認識がさらに向上する可能性が示された。
|