研究目的 イットリウムを多量に含む、直径20〜30μmの微小球は、カテーテルにより血管を介して腫瘍部に送り込まれ、栄養血管を詰めてがんへの栄養補給を断つと同時に、そこからがん細胞のみを直接放射線照射して治療する材料として有用である。これ迄に、高周波誘導熱プラズマ溶融法により作製したY_2O_3微小球が提案されたが、同微小球の比重はきわめて大きいので、腫瘍部注入時に均一な懸濁液が得られ難く、しかも注入された微小球が患者の背側に局在分布する恐れがある。本研究は、ウレアーゼを含むカルボキシメチルセルロースナトリウム塩(CMC-Na)水溶液を、尿素を含む硝酸イットリウム(Y(NO_3)_3)水溶液中に滴下し、得られた試料を種々の条件で加熱処理することにより、イットリウムを多量に含み、しかも化学的耐久性に優れた、直径20〜30μmの中空のY_2O_3微小球を得る条件を追究することを目的とする。 研究成果 ウレアーゼを含むCMC-Na水溶液を、スプレーガン(ノズル径:1mm)を用いて、尿素を含むY(NO_3)_3水溶液に噴霧した。これを36℃の恒温槽で4日間保持することによりゲル状試料を得た。試料を蒸留水及びエタノールで3回洗浄し、凍結乾燥した後、SiC電気炉中、1300℃で2時間保持し、その後炉内で放冷した。得られた試料の形状を電界放出型走査電子顕微鏡により観察し、同試料の構造を粉末X線回折により調べた。その結果、Y(NO_3)_3水溶液にCMC-Na水溶液を滴下すると、Y^<3+>の架橋効果により、直径30〜100μmの球状のゲルが生成し、更にこれを36℃の恒温槽で4日間保持すると、ゲル表面に非晶質のY(OH)_3が析出した。得られた徴小球を1300℃で2時間熱処理すると、微小球の直径は10〜40μmに減少し、Y(OH)_3が立方晶Y_2O_3に変化した。このようにして得られた微小球をふるい分けすることにより、直径20〜30μmの微小球を得ることができた。熱処理前の試料及び加熱処理した試料の表面は緻密で、内部は多孔構造であった。以上より、ウレアーゼを含むCMC-Na水溶液を、尿素を含むY(NO_3)_3水溶液にスプレーガンにより噴霧し、これを1300℃で加熱すると、表面が緻密で内部が多孔の直径20〜30μmのY_2O_3微小球が得られることが分かった。
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