研究概要 |
本年度の研究では,カルボキシル基を豊富に有する植物由来ポリペプチドを基材とし,これらの表面にアパタイトを複合化できるか否かを調べた。小麦由来のグルテン,トウモロコシ由来のゼイン,あるいは納豆菌の代謝作用により得られるポリグルタミン酸等のポリペプチドから薄膜あるいはゲルを調製した。溶剤中のポリペプチド濃度ならびに架橋剤の濃度を適切に制御することにより,水溶液環境下に置かれても崩壊し難い薄膜あるいはゲルが得られた。これらを予め水溶性カルシウム塩水溶液に浸漬し,引き続いてアパタイトに対して過飽和な濃度のカルシウムイオンとリン酸イオンを含む水溶液に種々の期間浸漬した。その結果,未処理の試料は7日浸漬されてもアパタイトを形成しなかったのに対し,カルシウム塩水溶液で処理したポリペプチドは7日以内に表面にアパタイトを形成した。これらポリペプチドはカルボキシル基を側鎖に持つアミノ酸を20〜100モル%含んでいる。ポリペプチド表面のカルボキシル基がアパタイトの核形成サイトとして働くと同時に,表面に導入されたカルシウムイオンが溶出し,アパタイトに対する周囲の液の過飽和度を高めた結果,ポリペプチド表面にアパタイトが析出したものと考えられる。このアパタイト形成機構は,コラーゲン等の基質中のカルボキシル基周辺で,カルシウムイオン濃度が局所的に上昇することによりアパタイトが沈着する生体内での石灰化機構と類似していることが分かった。
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