研究概要 |
N-isopropylacrylamide(IPAAm)と独自に合成したIPAAmにカルボキシル基を導入した誘導体(CIPAAm)を用いて、温度応答性培養皿を作製した。これら温度応答性培養皿は、全モノマー量に対するCIPAAmのモル分率を1,3,5%と変化させ、反応溶液のモノマー濃度を50wt%に固定して5μL/cm^2を細胞培養皿へキャストし、電子線照射により重合反応と培養器材表面へのグラフトを同時に行ったものである。続いて、GFP遺伝子をコードしたプラスミドDNAとカチオン性キャリアー(高分子であるpoly[(dimethylamino)ethylmethacrylate](PDMAEMA)または市販の脂質キャリアーであるlipofectamine plus)とを正電荷過剰の条件で複合体化し、これらをpoly(IPAAm-co-CIPAAm)の温度応答性培養皿底面へ静電的に固定することを試みた。蛍光分子でラベルしたプラスミドDNAを用いて蛍光顕微鏡ならびに蛍光イメージングアナライザーで解析したところ、CIPAAm 5mol%で作製した培養皿を用いた場合では底面から蛍光のシグナルが検出され、カチオン性キャリアー/DNA複合体が固定されていることが示された。DNAを2μg/cm^2でキャストした場合、培養皿への固定化率はキャリアーがPDMAEMAの場合で14%(N/P=10)、lipofectamine plusで3.8%であった。また、PDMAEMA/DNA複合体では、培養皿底面に固定されたこれら複合体の凝集が観測されたのに対して、lipofectamine plus/DNA複合体は独立したパーティクルとして存在し、AFMを用いた解析では粒径が約300-400nmと測定された。 これらカチオン性キャリアー/DNA複合体を固定した温度応答性培養皿へCOS-1細胞を播種し、細胞のbasal面からの遺伝子導入を試みた。温度37℃の通常の培養条件では、細胞は遺伝子固定化温度応答性培養皿底面へ接着し、伸展・増殖した。続いて温度20℃に下げると、細胞は温度応答性表面から剥離し始めた。この際同時に、底面に固定されたキャリアー/DNA複合体が細胞側へと引き剥がされることが、蛍光顕微鏡を用いた解析より明らかになった。しかしながら、DNAは効率的に発現せず、培養皿中の全細胞数に対してGFPを発現した細胞の割合は0.05%前後にとどまった。共焦点レーザー顕微鏡を用いて遺伝子の細胞内動態を解析したところ、DNAは細胞膜表面ならびに細胞質に局在していることが示唆された。効率的なDNAの発現には核への移行が必要であり、これらの結果を踏まえて効率よい遺伝子発現を目指し、今後システムの改善に取り組む。
|