本研究の目的は胚性幹細胞の分化・未分化特性を制御する培養システムを構築することである。分化系においては効率的に胚様体を誘導することを試みた。培養基材としてU字型形状を有し、その表面に生体細胞膜と同様のリン脂質極性基を集積化した表面(PCサーフェイス)を作製した。PCサーフェイス上でES細胞は全く接着することなく、かつ、基材中央部に集中した。その結果、通常の作製方法と較べて迅速な胚様体の誘導を可能にした。PCサーフェイス上では単一かつサイズを制御した胚様体の作製に成功した。これは、これまでの不均一な胚様体を規格化することにつながると期待できる。また、分化誘導因子による刺激添加後、神経細胞への誘導を確認した。 新しい培養基材を創製するために、光反応性のリン脂質ポリマーを調製した。光反応性リン脂質ポリマーは基材表面に塗布後、紫外線を照射することでゲル化する。これをもちいて培養基材の表面修飾を行った。また光照射時にフォトマスクを介することで任意のマイクロパターン表面を得ることができる。ここでは、光反応性リン脂質ポリマーを用いて、任意のサイズのマイクロパターン化表面を得た。マイクロパターン表面上にES細胞を播種すると、細胞はリン脂質極性基の集積化表面上には接着することなく、それ以外の細胞外マトリックス吸着領域のみに選択的に接着した。培養を継続すると、細胞外マトリックス領域のみで成長した。この細胞の未分化性を評価したところ、ES細胞が高い未分化性を維持していることがわかった。これは、マイクロパターン表面がES細胞の機能を誘導できることを示唆した。
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