研究概要 |
左心室収縮末期圧容積関係(E_<es>)が心室の収縮能のみを見ているのに対し、拡張期容積と一回駆出仕事量の関係をみた前負荷・リクルータブル・一回拍出仕事量関係(PRSW)は収縮能・拡張能を統合的に捉えることができる指標である。PRSWの傾き(M_w)は、E_<es>と同様、あるいはそれ以上に臨床上有用であることが知られ、前負荷・後負荷への依存性が少なく心室機能を解析できるので広く用いられる指標となっている。よってM_wを定常状態の心拍出量(CO)、平均動脈圧(AP)、平均左心房圧(LAP)および心拍数(HR)から推定する枠組みを開発した。理論解析ではM_wはE_a×(E_<es>/k/(E_a+E_<es>))^2と正相関することが示された(E_a,実効動脈エラスタンス(=AP/(CO/HR));k,心室硬度定数)。左心室心拍出量曲線の傾き(SL)は解析的にSL=HR×E_<es>/k/(E_a+E_<es>)と表され、SL=CO/(ln(LAP-2.03)+0.8)として算出しうる。M_wはE_a×(SL/HR)^2と相関すると言う仮設をたてた。その相関関係を経験的に用いCO、AP、LAP、HRからM_wを8匹の麻酔下成犬にて正常・心不全において推定できるか検証した。推定精度は良好であった(y=0.85x+9.2,r=0.89,n=32,SEE=4.8mmHg,20〜150mmHg)。強心剤(ドブタミン)投与時のM_wの変化も良好に推定しえた(y=0.99x+5.0,r=0.85,n=16,SEE=11.9mmHg,20〜90mmHg).このように心室機能の良好な指標であるM_wが定常状態の血行動態指標で正確に推定しえた。CO、AP、LAP、HRはスワン・ガンツ=カテーテルと末梢動脈血圧測定から比較的簡単に取得しうる。よって心室機能を簡便にモニターできるようになることから、臨床における循環管理においてこのM_w推定法はきわめて有用と考えられた。
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