研究概要 |
肺は、呼吸の際大変形し、生体内の中で最も変形する臓器の1つである。特に肺のやわらかさを示すコンプライアンスは、臨床だけでなく気道内の力学現象に対して重要情報である。従来肺の微細構造は、固定標本を作製し顕微鏡下で観察されおり、ガス交換に重要な末梢気管支レベルでのコンプライアンスの情報は全くわかっていない。我々は、高輝度を有するSPring-8放射光を用いた高速高空間分解能CTシステムを確立し、化学処理を行わない軟組織という生理的条件下において肺の微細構造を可視化した。実験はSPring-8医学イメージングビームラインBL20B2およびR&DビームラインBL38B1で行った。従来のSPring-8におけるCTシステムは、撮影時に回転ステージを一旦止め、露光・画像の取り込みを繰り返して投影像を収集していた。本研究では、回転ステージを止めることなく露光を繰り返し、高速取り込み可能なCCDカメラによって連続的に投影像を収集した。その結果,空間分解能23μm・視野角24mmの条件下において、スキャン時間を10分程度に短縮することが可能となった。さらに高速高空間分解能CTシステム用いて、マウス肺の擬似吸気時における末梢細気管支の変形量を測定した。直径が200Fm以下の細気管支の直径と長さは、最大肺容量時にはそれぞれ68,30%増加し、直径が400μm以上の比較的太い気管支は、それぞれ45,23%増加した。この末梢気管支の大変形は、気管支の不均一な変形を示唆しているだけでなく、気管支内のガス交換を促進している可能性がある。本研究で開発した高速高空間分解能CTによって、末梢細気管支での薬剤の沈着量を見積もることが可能である。さらに末梢細気管支の局所コンプライアンスの測定は、末梢細気管支の薬剤効果を定量化することが可能である。以上より、本年度では肺経由ドラッグデリバリー技術の開発のための新しい測定および解析方法の提案を行った。
|