研究概要 |
肺は、呼吸の際大変形し、生体内の中で最も変形する臓器の1つである。喘息患者の肺は、気道組織のリモデリングにより気管支壁が厚くなり、コンプライアンスが低下することが知られている。しかし、従来は臓器レベルの巨視的な計測しか行われておらず、ガス交換に重要な末梢細気管支に特化した計測・比較は行われていない。我々は、昨年度、高輝度を有するSPring-8放射光を用いた高速高空間分解能CTシステムを確立し、化学処理を行わない軟組織という生理的条件下において肺の微細構造を可視化した。その結果,空間分解能23μm・視野角24mmの条件下において、スキャン時間を10分程度に短縮することが可能となり、擬似吸気に伴う末梢細気管支の変形、さらに末梢細気管支に特化したコンプライアンスの算出方法を提案した。今年度は、SPring-8放射光CTを用いて健常マウスと喘息モデルマウスの擬似吸気での気管支の変形量、さらに末梢細気管支コンプライアンス(直径150〜500μm)を比較した。喘息モデルマウスは、健常マウスに鼻からOVAを10週間滴下することにより作成し、IgE検査が優位に上昇することを確認した。健常マウスと喘息モデルマウスの間には、直径500μm以上の気管支では優位な差はなかったが、直径200μm以下の気管支では喘息モデルマウスの気管支の変形量は優位に小さかった。また、健常マウス・喘息モデルマウス共には末梢細気管支ほどコンプライアンスが大きく、肺全体の肺コンプライアンスより大きかった。喘息モデルマウスの末梢細気管支コンプライアンスは、健常マウスと比較すると、直径500μm以上の気管支では70%、直径200μm以下では57%と、末梢細気管支ほど末梢細気管支コンプライアンスの差が大きかった。最近、呼吸に伴う気管支壁の変形が末梢部位でのガス交換を促進していることが示唆されており、本実験結果は喘息患者が呼吸困難になる原因のひとつであるかもしれない。
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