本研究では非侵襲的な局所的温熱療法のための誘導加熱技術の確立を目的とし、ファントムおよび生体内における感温性磁性体微粒子の温度上昇を測定した。また、回転磁場印加法による磁性体の発熱効率向上を目指し、回転磁場印加装置を試作した。得られた成果を以下に示す。 (1)生理食塩水を寒天で固めたファントムに埋め込んだ磁性体の温度計測結果より、誘導加熱30分後でも磁性体から1.5cm離れた部位の温度は42℃以下であることを実証し、周囲の正常組織への悪影響が少ない局所的加熱が可能であることを明らかにした。 (2)誘導加熱ではNaCl濃度に比例して発熱量が増大する現象を確認し、これが渦電流損によるものであると考えた。同時に、生理食塩水をベースとしたファントムでは、生体内における磁性体の実際の発熱温度よりも高い値となることを実証した。 (3)生体の導電率と等しくなるようにNaCl濃度を調整したファントムでは、誘導加熱により感温性磁性体を一定温度に維持できることがわかった。 (4)動物実験により生体内でも感温性磁性体を一定温度で維持できることを実証し、ファントムでの基礎実験とほぼ一致した昇温特性が得られることを確認した。 (5)回転磁場印加装置を作製・改良し、コイル中心部の磁束密度を前年度比3倍に増加させることに成功した。 以上の結果より、本論文で提唱した感温性磁性体を用いた誘導加熱技術によって、癌腫瘍部のみを局所的に、かつ一定温度で加熱する温熱療法が可能となると期待できる。また、回転磁場印加装置の性能が向上したことで、次年度、回転トルクを計測することが可能となり、回転磁場印加法についてより詳しく検討することが可能となった。
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