研究概要 |
超音波診断装置を用いて肝病変の病変進行を定量的に評価するために,生体からの反射情報である超音波エコー信号と生体の構造及び音響特性の関係を明らかにし,定量診断指標を確立することを目的とし,研究を行った. 超音波の減衰と音速を正常なヒト肝臓に近い状態に設定し作成した擬似生体資料(ファントム)の中に,音響特性の異なる物質を埋抱し,正常肝に近い部位と埋抱部位におけるエコー信号の振幅特性の差異について解析した結果,埋抱物がごく微小な場合においても特性変化が認められた.また,これらのファントムデータに対して,本研究において提案する生体中における病変情報の定量抽出処理法を適用した結果,微小な埋抱物の形状と位置を抽出することができ,病変組織の小さい早期病変においても安定な抽出結果が得られることが示された. これらの結果を踏まえ,ヒト肝臓の剖検試料(肝硬変)を用い,水槽実験によって収集したエコーデータに対して提案処理を施した結果,肝硬変の特徴である線維組織の構造を3次元で明瞭に抽出することが可能となった.提案手法による線維組織の抽出結果の妥当性を検証するために,同一の剖検試料から複数枚の病理標本を作成し,画像処理によって線維組織の3次元像を構築した.エコーデータから抽出・構築した3次元像と,病理標本から構築した3次元像を比較した結果,75%程度の一致率を示した.これは,超音波診断における分解能を考慮すると,十分に精度が高い結果であり,エコー信号から線維組織の情報のみを正確に抽出できたといえる.
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