拡散テンソルMRI画像において高精度に脳白質神経線維束を抽出し、その走行を解析し追跡する新しいアルゴリズムを開発することを目的として、本年度は下記のアルゴリズム開発・実装および実験を行った。 1.拡散テンソル楕円体形状に基づく脳白質領域抽出手法の開発 拡散テンソルMRI画像の各ボクセルにおける固有値を特徴量として、教師なし競合型学習アルゴリズムである自己組織化マップを利用した脳白質領域抽出手法を開発した。これにより従来用いられていたスカラー量の拡散異方性指標を用いて白質領域を抽出するよりも、良好に白質領域が抽出された。 2.脳白質線維束走行解析手法の開発 拡散テンソル楕円体形状に基づいた密度分布モデルを考案し、上述の白質領域に基づいて、拡散テンソルMRIボクセル空間に脳白質線維束の3次元密度場の生成手法を開発した。本手法での脳白質神経線維束追跡は、この3次元密度場に基づいてボクセル間の結合を評価し、指定された始点から選択的に追跡しその経路を可視化するものである。従来手法と比較した本手法の有意点は以下の3つである。 (1)ボクセル間の連結を1対多で表現することで脳白質神経線維束の分岐を許容している。 (2)追跡には拡散テンソルの第1固有ベクトルだけでなく残りの二つの固有ベクトルも使うことで、3つの全ての固有ベクトルを使うため、結合するボクセルを3次元的に探索できる。 (3)追跡した脳白質神経線維束経路の信頼性の評価が可能となった。これはボクセル間の連結判定の指標に3次元密度場を用いているため、結合の信頼度および脳白質神経線維束経路の信頼度を確率で表現でき、経路の表示においてその信頼度を可視化することが可能となった。 3.本手法の検証実験 本手法を実際の拡散テンソルMRI画像データに対して適用し、本手法の妥当性を検証した。本年度までの段階では、主な神経線維束である錐体路が良好に描出され、神経解剖学の知識とほぼ一致することが確認された。
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