研究概要 |
本研究の目的は,脊髄損傷者の1日のエネルギー消費量推定法を確立し(平成16年度),日常生活における脊髄損傷者のエネルギーバランスの実態を解明するとともに(平成17年度),エネルギー消費量の自己管理を容易にする脊髄損傷者用簡易カロリー計を開発することである(平成18年度)。平成16年度は,脊髄損傷者の日常生活のエネルギー消費量を推定するには,心拍数法に比べ加速度法で精度の高いことが確認され,3次元加速度計の装着部位は麻痺部の足関節部で有効であることが明らかとなった。 平成17年度は,平成16年度の結果を踏まえ,3次元加速度計と心拍計を用いて脊髄損傷者の1日当りの総エネルギー消費量を測定し,肥満との関連を検討した。 脊髄損傷者11名に3次元加速度計(Mini-Micro Actigraph, A.M.I.社)及び心拍計(Polar S810i, Polar Electro社)を装着し,加速度比例積分値(PIM)と心拍数(HR)を3日間測定した。また,体脂肪計(MLT-30,セキスイメディカル電子社)にて体脂肪を測定するとともに,磁気共鳴画像診断装置(JYROSCAN ACS-NT, Philips社)にて臍レベルの断層像を撮影し腹部の内臓脂肪面積を計測した。 主な結果は次の通りである。 1.脊髄損傷者の1日当り総エネルギー消費量(TEE/Wt)は,BMI,体脂肪率,内臓脂肪面積と有意な負の相関があり,TEE/Wtが少ないほど肥満傾向にあることが明らかとなった。 2.内蔵脂肪面積と体脂肪率は,3METs以上の身体活動の1日合計時間との間に有意な負の相関を認め,1日の生活で3METs以上の活動時間が短い脊髄損傷者ほど,体脂肪が多い傾向を示すことが明らかとなった。 3.3METs以上の身体活動が1日合計30分に満たない脊髄損傷者は,日本人の肥満判定の基準とされる内臓脂肪面積100cm^2以上および体脂肪率25%以上を有することが確認された。 以上のことから脊髄損傷者の肥満は,1日の総エネルギー消費量と密接に関連しており,身体活動の増大や食事療法によりエネルギーバランスの改善をはかる必要性が示唆された。
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