研究概要 |
認知症は日常生活の中で同時に幾つかの課題を遂行することが困難でエラーを生じてしまうなど,注意資源の配分能力に問題を有するとされているが,その実態をP300を指標にして検証した報告は見当たらない.本研究では,まず軽度認知症11名に対し注意処理資源の配分能力を明らかにする目的で二重課題法を用いP300成分を指標にして検討した.二重課題の主課題は,聴覚的Odd-ball課題とし,副課題は視覚的反応時間課題((1)選択反応時間課題と(2)注意シフト課題)として,主課題から得られたP300振幅・潜時を健康老人と比較検討した.その結果,二重課題によりP300の振幅は減衰し,その減衰率(単一課題に対する二重課題の比)は健康老人より有意に大きく,潜時の延長率も有意に大きかった.しかし,副次課題が選択反応時間課題と注意シフト課題の二重課題間における主課題のP300振幅・潜時に差は認められなかった.これらのことより,軽度認知症は課題の使用処理資源量や2課題間の注意処理資源の競合量が大きく,資源配分能力が低下していることが示唆された. 次に,副次課題を作業療法の臨床場面で使用されている課題として試験的に難易度を設定し,その難易度が主課題のP300に反映するかを検討した.軽度認知症6名を対象に主課題は,Odd-ball課題,副次課題は,(1)自動的処理を要する円書き課題,(2)即時記憶を要する模写課題,(3)想起課題とした.その結果,副次課題が円書き課題の二重課題は,Odd-ball課題のみのP300振幅・潜時と変化なく,使用処理資源量が少ないことが示唆された.模写課題や想起課題においては,Odd-ball課題のみと比較しP300振幅は有意に減衰し,その減衰率は想起課題が若干大きかった.以上より,認知的負荷量は,想起課題,模写課題,円書き課題の順で大きい傾向を示し,主課題のP300振幅に反映することが示唆された.
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