今年度の研究では、打鼓ゲームにおけるリズミックな両手運動がどのような治療効果を与えるかについて、その指標を同定するために複数の予備的な実験および臨床場面の観察を行った。まず、ゲーム上の演奏行為の上肢運動機能の回復に対する効果の有無を検証するために、神奈川リハビリテーション病院にて、片麻痺患者11名を被験者として実験を行った。連続5試行を1セッションとし、各日1セッションを二日間にわたり施行し、試行前、第一セッション終了後、第二セッション終了後に上肢運動機能検査STEFを行い、そのスコアを比較した。その結果、実験群と統制群の両方において訓練後に上肢機能の改善傾向が示唆された。次に、参加した被験者の中で連打による不適切な打鼓戦略(画面上に表示される打鼓のタイミングを表す信号に打鼓動作を合わせるのではなく、ボタンを急速に連打することによって同期率を上げようとする戦略)が見られた1名に対し、打鼓ゲームをリハビリテーション上の訓練課題として作業療法士が治療的介入を行う場面を観察し、この症例について研究協力者である病院スタッフと共に検討を行った。その結果、バルーン上の座位姿勢において支持面の知覚を誘導する支援をOTが行い、筋緊張を緩和させた後に連打が消失したことから、上肢運動の過剰努力が連打という課題達成に不適切な動作戦略を生み出したと推測された。また同時に、この症例はゲーム上の打鼓運動が訓練上は不適切な筋緊張状態をもたらしうることを示唆している。これらの検討の結果、最初から患者が単独でゲームを行うのではなく、治療者が姿勢や上肢運動を支援しながら行う過渡的な段階を経ることが必要であるとの知見が導かれた。今後の展開として、治療者の介入を含む実験課題を設定し、打鼓動作が望ましい機能回復効果をもたらすためにはどのような介入方法が妥当であるのかについてより検証を進める予定である。
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