今年度の研究では、前年度において導かれた知見に基づき、治療者の介入を前提とした訓練環境を同定するために、打鼓ゲームを用いた実験課題を設定し検証を行った。 実験においては、打鼓ゲーム演奏時のバランス状態に着目し、上肢運動に伴う体幹の動的な反応および試行の反復による変化について検討し、これによって訓練効果および治療者が介入するポイントの同定が目された。神奈川リハビリテーション病院で実験課題を行い、2名の片麻痺患者について主要な傾向を検討した。 実験では、打鼓演奏ゲームを用いた実験装置について、打鼓スイッチをテーブル面に垂直に据え付けた柱上に固定し、体幹の重心が動いてバランス状態を計測しやすくなるよう工夫した。被験者は、指定された1曲の演奏を1試行、連続5試行を1セッションとし、5分の休憩をはさんで合計2セッションを遂行した。被験者は運動解析用のマーカを肩峰および骨盤上部の両側に計4個装着した状態で実験課題を行い、課題遂行場面は民生用デジタルビデオカメラ(SONY DCR-HC88)2台で録画された。録画された映像は、モーションキャプチャソフトウェアPVStudio3D Ver2.2 (L.A.B社製)によって解析され、マーカの座標位置の時系列データが抽出された。これについて、体幹中心の運動軌道および姿勢形状の非対称性を評価関数として算出し、試行の繰り返しによる時間変化を検討した。 その結果、両被験者は非麻痺側にあった体幹の中心が麻痺側に傾いていき、姿勢の非対称性が強まる傾向があった。この傾向は片手操作において片麻痺患者に一般的にみられる過剰努力に起因するため、打鼓ゲーム訓練時には、治療者がバランスに介入しながら非対称性を緩和していくのが適切と結論づけられる。本研究では十分な学習効果が見られなかったが、より長期的な訓練データの収集による検証が今後の課題である。
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