研究概要 |
運動誘発性筋損傷モデルの確立と生体顕微鏡による血流動態の評価方法の妥当性について検討した.生体内の微小循環動態を直接的に観察するには,脊柱僧帽筋(Spinotrapezius muscle)などの非常に薄い筋組織であるという制限を受ける.その筋にエキセントリック(伸張性)の筋収縮を負荷し,運動誘発性の筋損傷を与えること必要であり,その運動モデルの確立を目指した. 実験にはSD系雌ラット(体重〜300g)を用いた.小動物用トレッドミルを用いて,ダウンヒルランニング(傾斜-14度,n=7)またはレベルランニング(傾斜なし,n=5)中の血流動態をマイクロスフェア(Microsphere:MS)法によって調べた.分析の結果,レベルランニングと筋損傷を誘発するダウンヒルランニングでは運動中の血流配分が大きく異なることが示された.特に顕著な違いが見られた筋群としては,下腿の前脛骨筋(Tibialis anterior)と長指伸筋(Extensor digitorum longus)であった.また,レベルランニングによって脊柱僧帽筋の血流増加は観察されなかった.ところが,ダウンヒルランニング中は,安静時と比較して266%の有意な増加が認められた.脊柱僧帽筋の機能的な役割の一つは,肩甲骨を安定させることである.ダウンヒルランニングでは上肢を使ってスピードを制御する必要があるため,その働きにともない脊柱僧帽筋の動員が生じたものと考えられる.この筋は生体顕微鏡の観察対象となる薄状の筋であるが,先行研究ではこの筋がランニング中に動員されないことを指摘している.したがって,これまで生体顕微鏡による運動と血流の関連については実験モデルが存在しなかったが,ダウンヒルランニング中にこの筋が動員されることが本研究によって示された.
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