ソーシャル・キャピタルとしてのスポーツという視点を無意識のうちに内包してきた「コミュニティ・スポーツ」に関する文献研究を行い、その問題点を整理した。そこでは、都市社会学者の園部(1984)が「スポーツ活動やリクリエーション活動が親交的コミュニティを形成するための主要な手段と見做す仮説」があるが、そういった活動によってよりも「日常生活の維持にとって不可欠な様々な課題の共同による解決の活動に、より主要な親交的なコミュニティの源泉を見出すことができるはず」という都市社会学からの批判に真っ向から反論できるほど、「地域とスポーツ」に関する研究は十分な研究蓄積がなされていないということが明らかとなった。また、総合型地域スポーツクラブ設立に向かう動きだけが先走るという現状の中で、1970年から80年代に熱気を帯びて繰り広げられた「地域とスポーツ」に関する議論やコミュニティ研究が置き去りにされ、地域に暮らす人々の視点が決定的に欠落しているという問題点を浮き彫りにすることができた。本研究では、こうした研究の空白地帯をふまえた上で、国内のある自治体を事例に、地域におけるスポーツの全体的な体制がどのように構築され、そのネットワークがいかに重なり合いながら市民スポーツの地歩を固めてきたのかということを、フィールドワークによって跡付けてきている。 さらには、同様の視点をヴァヌアツ共和国においても反映させながら、スポーツを介したネットワークが、どのような経緯で形成され、場合によってはどのような条件下でそれが瓦解するのか、といった点などを明らかにするために、現地でのフィールドワークを実施した。今回の調査では、クリケットを通じて萌芽状態にあったネットワークが、停滞し、地域によって瓦解していることが判明した。1997年より内発的なかたちで広まったネットワークが、なぜ「停滞の憂き目」となってしまったのか。その原因については様々な理由が考えられるが、次年度以降、継続的に調査を行い、精査していく予定である。 なお、本年度は研究課題に対する基盤固めの時期ということもあり、論文として活字化までに至ったものがないが、国内の調査結果についてはおおよそ纏まりつつあるので、次年度以降、それらを公表していく予定である。
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