スポーツ振興基本計画が施行されて以降、総合型地域スポーツクラブ設立に向かう動きだけが先走るという現状の中で、1970年から80年代に熱気を帯びて繰り広げられた「地域とスポーツ」に関する議論やコミュニティ研究が置き去りにされ、地域に暮らす人々の視点が決定的に欠落しているという問題点を、これまでの文献精査のなかで浮き彫りにすることができた。そこでは国際開発研究において俄かに脚光を浴びつつある「ソーシャル・キャピタル」という視点を無意識のうちに内包していたわけだが、地域におけるスポーツの全体的な体制がどのように構築され、そのネットワークがいかに重なり合いながら市民スポーツの地歩を固められてきたのかといった問題を立体的に跡付けた研究は、ことのほか少ないということが明らかとなった。 本研究では、こうした問題認識を背景に、地域固有のヒストリカルな位相のなかでスポーツがデヴェロップしていく過程を、南太平洋のヴァヌアツ共和国と日本国内地域の事例から長期的なフィールドワークによって跡付けてきている。ヴァヌアツについては、昨年度の調査で、クリケットを通じて萌芽状態にあったネットワークが停滞し、地域によって瓦解していることが判明した。今年度も引き続きヴァヌアツに渡航し、その原因について継続的に調査を行ったが、そこにはスポーツにおける「卓越化の論理」が作用し、加えて「海外からの資本投入」の有無が、特定スポーツの盛衰に対して、大きな因子となっているという事実を明らかにすることができた。また、経済的資本のみならず、関係者を取り巻く海外からの人的資本も特定スポーツの盛衰に対して大きく影響しているという位相を浮き彫りにできつつある。これらについては、次年度以降、フィールドワークを継続し、精査していく予定である。 さらには、同様の視点を日本国内においても反映させながら、信越地方の自治体を事例に、スポーツを介したネットワークが、どのような経緯で形成され、場合によってはどのような条件下でそれが瓦解するのか、といった点などを明らかにするために、現地でのフィールドワークを実施してきている。これまでの調査で、途上国と日本国内、数年にわたる横断的なデータが収集されつつあるので、これらの調査結果については、次年度以降、順次公表していきたいと考えている。
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