ボスニア・ヘルツェゴビナ及び、カンボディア王国において、フィールド調査を実施した。ボスニア・ヘルツェゴビナでは、ポストコンフリクト期に複数の団体によるスポーツ活動が実施されていたことが明らかになり、その中のいくつかは、紛争中から活動を開始していたという興味深い事実が判明した。旧ユーゴスラビアの一共和国であったことから、スポーツに関る知見や経験が豊富であり、指導やマネージメント方法を熟知したスポーツ関係者や教員が多数存在した。このような環境において、スポーツは、公教育内容の一つであるのみでなく、コミュニティーにおける青少年教育や民族融和の目的のために有効に活用されている。中でも民族融和の手段としてのスポーツの活用例の中には、目に見える成果を残したものも存在し、「民族融和とスポーツ」というテーマに関しても更に検証を行う必要性を認識した。カンボディア王国では、和平協定の締結と前後してスポーツを教育的手段として活用するための様々な取組みがなされていた。特徴的なのは、オリンピック委員会と教育省スポーツ局が綿密に連携しており、競技スポーツと生涯スポーツの境界が曖昧である点であり、日本のスポーツ・体育の現状と近似していた。公教育制度の立て直しが図られる中でスポーツが果たしうる「教育的役割」、さらに他の教育内容(科目)との兼ね合いの中での「スポーツ教育」に関して、政府レベル、地方レベルでの教育行政関係者への聞き取りから考察した。公教育の質量両面での充実が急速に進められている現状において、スポーツ教育が教育内容の一部としてどのような位置づけを獲得していくのか、に関して考察を続ける必要性を認識した。
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