本研究は、元アスリートは、1)どのような出来事を転機として挙げるのか(転機のカテゴリー化)、2)いくつの転機を有するのか(転機の多少は何に起因するのか)、3)ひとつの転機をどのように捉えているのか(出来事をポジティブに捉える要因、ネガティブに捉える要因とは)、4)転機を転機として認める個人内基準とは何か、といったリサーチ・クエスチョンの下、3年間継続して実施された。 まず、研究課題として、インタビュー調査の実施と「自己物語」の作成・検討を設定し、具体的には、1)インタビュー・マニュアルの作成、2)集中的なインタビュー調査の実施、3)自己物語の集積と質的分析、等の作業を行った。続いて、インタビュー調査の継続実施と研究成果の一部公開を課題とした。特に、モントリオールオリンピック大会に出場した日本代表選手を対象として、集中的なインタビュー調査を実施した。また、日本体育学会第56回大会(於:筑波大学)において、研究成果の一部を公開した。特に、大会本部が企画したオーガナイズドセッションにおいて、心理学領域のみならず、社会学や体力学、人類学等のプレゼンテーションと伴に、「スポーツ科学領域における事例研究の展開」といった共通のテーマ設定の中、ディスカッションできたことは意味深い。そこでの学究的刺激は、本研究の今後の展望について新たな知見の発掘を促した。そして、前年度に獲得したデータの補完を目指し、継続的なインタビュー調査を実施した。そして、日本体育学会第57回大会(於:弘前大学)において学会発表し、国内研究雑誌への論文投稿作業へと入った。特に、本研究をまとめるにあたり、「転機」といった観点から興味深い知見を得ることができた。そこでは、転機を経ることにより喪失というよりは獲得といった側面が強調され、そこには心理的成熟をみることができた。
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