血液の流動性の低下は心臓血管障害のリスクファクターであることはこれまでの先行研究から明らかである。一方、日常的に運動トレーニングを実践している持久性競技者の血液粘度の低下や赤血球変形能の亢進が報告され、運動が血液流動性に寄与する可能性が考えられる。運動を実践することによって、血漿粘度の低下、赤血球変形能の亢進、血小板の過剰な活性化の抑制などが起こり、血液流動性が改善されれば、心血管系への負担を軽減することが推察される。生体内の毛細血管を流れるのは全血であるが、近年、毛細血管と同じ径を持つ流路に全血を流して血液流動性を測定する新たな装置(毛細血管モデル:MC-FAN)が開発され、そこで得られた研究成果が注目を浴びている。健康情報が氾濫する中、血液流動性、いわゆる血液のサラサラ度が運動によって改善されるとの情報が一般に広がりつつあるが、実際のところ、全血での血液流動性について運動の影響を縦断的に検討した報告は少ない。全血での血液流動性と食事に関する先行研究は、特定の食品(例えば海洋深層水、黒大豆の煮汁、魚油など)に焦点を当てた研究が多く、その食品を摂ればあたかも健康になるかのような誤解を招きやすいものであった。栄養バランスのよい食習慣についての検討はなされていない。 本研究では運動の実践や運動の種類の違いが血液流動性に与える影響について検討する。また、特定の食品ではなく、栄養バランスの良い食習慣が血液流動性に与える影響を縦断的に検討する。肥満者を対象に3ヵ月間の減量プログラム(運動+食事制限プログラム)を実施し、減量の程度(内臓脂肪量、体重、体脂肪率の減少)と血液流動性の関係や食事制限のみを実施した群と運動を併用した群の血液流動性および健康関連指標、体力関連指標を比較検討する。また、有酸素性運動を併用した群とレジスタンス運動を併用した群の血液流動性および健康関連指標、体力関連指標を比較検討し、運動種目の違いによる影響も確認する予定である。 16年度は減量プログラム実施のための準備を中心に取り組んだ。17年度4月から実際に介入がスタートする。現在、食事制限のみの群(18名 40.3±6.4歳)、ウォーキングと食事制限群(20名 42.2±7.4歳)、レジスタンストレーニングと食事制限群(20名 43.2±7.4歳)の介入前のデータ収集が終わったところである。血液流動性については、それぞれ44.4±9.8秒、44.3±4.7秒、45.3±9.0秒であった。介入における血液流動性および健康関連指標、体力関連指標の変化については17年度報告できる予定である。
|