近年、脊髄に存在するといわれるCPG (central pattern generator)の働きが、人間の歩行の生成に関与するという学説が支持されるようになった。CPGのニューロン間の相互引き込みにより歩行様筋活動が発生していると考えられており、そのため外乱への適応にみられる歩行のしなやかさをうまく実現できるとされる。また、最近になって生理学等の分野において時系列データの規則性を定量化する試みがなされるようになった。加齢に伴って生理応答のゆらぎ現象が少なくなり規則的になるという報告が数多くみられる。歩行は最も基本的な周期運動であるが、その周期の時間的変動つまり規則性についてはあまり明らかでない。我々はApproximate Entropy(以下Apエントロピー)を用いて歩速が歩行中の頭部動揺周期の規則性に及ぼす影響を検討した。その結果、自由歩行の歩速、つまり歩速80m/min付近で最も規則性が高くなる可能性を発見した。このことはCPGおよび姿勢制御も含む歩行生成に関与する下位中枢の機能が自由歩行の歩速に最適化している可能性を示している。一方、現在我が国は高齢社会を迎え、多くの市町村で高齢者の体力維持増進についての取り組みが為されている。高齢者の転倒を予防しADL・QOLを高める要素として歩行能力が挙げられる。歩行機能については加齢とともに歩行速度・歩幅の減少等の変化が生じることから、これらの測定が行われ歩行機能の評価がなされている。しかしながら、歩行を生成していると考えられる下位中枢機能を測定し評価を行う方法は存在しない。そこで、歩行周期の規則性を指標にすることで歩行生成に関与する下位中枢の機能を簡便に評価する方法を開発することが本研究の最終的な目的である。
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