本研究の最終的な目的である、歩行周期の規則性を指標にすることで歩行生成に関与する下位中枢の機能を簡便に評価する方法を開発するために、我々は昨年度までにApproximate Entropy(以下Apエントロピー)を用いて歩速が歩行中の頭部動揺周期の規則性に及ぼす影響を検討した。その結果、自由歩行の歩速、つまり歩速80m/min付近で最も規則性が高くなる可能性を発見した。このことはCPGおよび姿勢制御も含む歩行生成に関与する下位中枢の機能が自由歩行の歩速に最適化している可能性を示している。近年、脊髄に存在するといわれるCPG (central pattern generator)の働きが、人間の歩行の生成に関与するという学説が支持されるようになった。CPGのニューロン間の相互引き込みにより歩行様筋活動が発生していると考えられており、そのため外乱への適応にみられる歩行のしなやかさをうまく実現できるとされる。 本年度は、将来的に実験室レベルではなくフィールドにおいて上記の歩行機能を測定するための基礎資料として、トレッドミル歩行と40m程度の実歩行の違いについて検討した。その結果、実歩行とトレッドミル歩行では、歩速に対する規則性の変化について同様の傾向を示すことが明らかとなった。つまり、40m程度の実歩行で上記の歩行機能の測定を行える可能性が示された。
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