研究概要 |
近年、脊髄に存在するといわれるCPG(central pattern generator)の働きが、人間の歩行の生成に関与するという学説が支持されるようになった。CPGのニューロン問の相互引き込みにより歩行様筋活動が発生していると考えられており、そのため外乱への適応にみられる歩行のしなやかさをうまく実現できるとされる。一方、高齢者の転倒予防に関する取り組みは全国的に行われているが、歩行機能を測定する項目としては、歩行速度・歩幅・歩調といった内容に留まっているのが現状である。そこで歩行周期の規則性を指標にすることで歩行生成に関与する下位中枢の機能を簡便に評価する方法を開発するために、我々はApproximate Entropy (以下ApEn)を用いて歩行中の頭部動揺周期の規則性に関する知見を集積した。 結果 1.歩行速度とApEn値の関係は、自由歩行速度より速い歩行速度でApEn値が低値を示し、規則性が高まった。歩調とApEn値の関係は、自由歩行以外の歩調でApEn値が低値を示した。歩行中の頭部動揺周期の規則性を定量化することで、姿勢制御を含む歩行生成に関与する中枢機能を評価できる可能性が明らかになった。 2.歩行周期10周期条件と30周期条件・50周期条件の間に、高い相関関係が認められた。このことから、10周期分のデータがあれば歩行中の頭部動揺周期の規則性を評価できる可能性が示唆された。歩速80,100m/min附近で、トレッドミル歩行と平地歩行のApEn値が近似を示した。このことから、15m程度の歩行距離があれば、姿勢制御を含む歩行生成に関与する中枢機能を評価できることが明らかになった。 3.各歩行速度における性差の比較では、どの歩行速度においても有意差は認められなかった。ApEn値と身体特性との関係は、弱い相関関係が認められた。性差や身体特性は、姿勢制御を含めた歩行に関与する中枢機能に影響を及ぼさないことが明らかになり、歩行中の頭部動揺周期の規則性評価には補正の必要性がないことが明らかになった。 4.各歩速条件において、若年成人と比較して高齢者のApEn値が低値を示すことが明らかになった。加齢に伴い、歩行中の頭部動揺周期の規則性が高くなることが明らかになった。小児は姿勢制御機能が発達段階であるため、頭部動揺周期の規則性が低くなることが明らかになった。
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