昨年度、生食する機会が多い野菜10種類(キャベツ、キュウリ、ダイコン、タマネギ、トマト、ナガネギ、ニンジン、ピーマン、ミズナ、レタス)より、グラム陰性菌385株を分離し、属レベルまでの同定を行ったところ、Klebsiella属、Enterobacter属などの日和見感染を起こす菌種が存在する可能性が示唆された。また5系統12種類の抗菌薬についてディスク拡散法による薬剤耐性を検討したところ、61株が1種以上の抗菌薬に耐性であった。特にカルバペネム系抗菌薬に耐性の株が多く、中には8剤耐性など多剤耐性株が存在した。今年度は分離菌株について同定キットを用いて種レベルまで同定を行い、菌種を明らかにした。また薬剤耐性株について、パルスフィールド電気泳動(PFGE)装置を用いてプラスミド保有状況を検討した。さらに一部の多剤耐性株[Sphingomonas parapaucimobilis ; 3剤耐性、Chryseobacterium gleum ; 2剤耐性、Stenotrophomonas maltophilia ; 3剤耐性(以上ミズナ由来株)、未同定株;8剤耐性(レタス由来株)]を試験菌とし、調理操作や食品保存(熱処理、塩蔵、酸)の条件下での生育状況と薬剤耐性度の変化を検討した。 種レベルまでの同定の結果、226株において種名が明らかになり、腸内細菌科に属する細菌が209株、Chryseobacterium gleum、Stenotrophomonas maltophiliaなどの日和見感染菌として代表的な細菌も同定された。食中毒菌のような病原性が高い細菌は本研究では検出されなかった。薬剤耐性株についてのPFGEの結果、プラスミドの存在は確認できず、薬剤耐性遺伝子が染色体上に存在することが示唆された。 調理操作や食品保存方法による多剤耐性株における生育状況と薬剤耐性の変化については、熱処理(59℃、55℃)では、コントロール(37℃培養)と比較して、若干の菌数の減少が見られたが、薬剤耐性度の変化は認められなかった。塩蔵の条件として10%NaCl、15%NaCl添加のLB培地にて検討したところ、コントロール(通常のLB培地)と比較して生菌数の若干の減少が見られ、アルベカシンおよびアミカシンで薬剤耐性度の若干の低下が認められた。また酸の条件として三杯酢(酢、食塩、醤油)を調製し、試験菌を接種した後、24時間後に菌を回収、回復培地(本実験ではLB培地を使用)にて培養したが、すべての試験菌において生育が認められなかった。 本研究の結果より、生食する機会が多い野菜より分離された細菌は比較的病原性が低い日和見感染菌種が多数であったが、薬剤耐性、特に多剤耐性を有した菌株も存在した。しかし、薬剤耐性はプラスミド性ではなく染色体性であることが示唆されたため、野菜の生食によってヒトの体内に入ったとしても、薬剤耐性遺伝子が他菌種へ伝播する可能性はひじょうに低いと考えられた。また調理操作や食品保存の条件下では、染色体性の薬剤耐性遺伝子の発現をコントロールすることは困難であることが示唆された。
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