本年度はアメリカ新教育運動期に展開され、環境教育の源流に位置づけられる自然学習運動の思想と方法について研究を進めた。とくに注目したのはE.T.シートンの著作並びに彼に関する研究である。計画では17年度に着手する予定であったが、これまで注目されてこなかったがシートンは子ども中心の教育観をもとに自然学習について詳しく論じ、しかもその実践にも積極的であったことから本年度より集中的に取り組んだ。二度にわたるアメリカでの調奪(ワシントンD.C、ニューヨーク)により、自然史博物館や動物園付属施設を見学しつつ、議会図書館やアメリカ自然史博物館付設研究図書館で関係資料を収集した。成果としては、シートンが1902年から執筆を開始し、毎年改良をくわえ続けて1906年に完成させたウッドクラフト・インディアンのマニュアルを取りあげ、彼が創始したウッドクラフト・インディアン運動の実態に迫った。国内では入手困難な1902年の初版から1906年の第5版までをすべて収集して分析をくわえ、ウッドクラフト・インディアンの思想形成や具体的なプログラムを明らかにした。森の中で生活する技術を意味するウッドクラフトの中核をなす自然学習に習熟する過程において、子どもたちは自然と自己を知り、自然と人間の関係を学ぶ。それにより自然環境に対して、人間に益するか否かという人間中心主義の立場を克服して内在的な価値を認め、保全に取り組む意識を高めてゆく。その点において環境教育の原型を確立したことが明らかになった。ウッドクラフトは必ずしもウィルダネスを必要条件とせず、都市部においても実践しうるよう工夫されていた。それゆえ都市部型環境教育として現在の環境教育に示唆的であることも明らかになった。その成果の一部は「都市部における自然学習論」(玉川大学教育学部『論叢』)において発表した。今後は野外活動をとおして子どもの健全な人格形成を構想していたことに注目し、シートンに代表される新教育を「エコロジカルな子ども中心教育」として特徴化して環境教育との関係を分析してゆく。
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