本研究は、特に文化財建造物を対象として、地理情報システム(GIS)と、内陸直下型地震に加え海溝型地震をも含んだ低頻度大規模自然災害の発生確率論を融合して、新しい実際的な危険度評価を試みるものである。本年度の実績は下記の通りである。 ・空間情報データベースの作成 災害危険度評価の基礎となる文化財建造物に関する空間情報データベースを作成した。 平成16年現在、国の重要文化財に指定されている建造物について、緯度経度で表された所在地情報を含む属性情報を入力しデータベース化した。本データと作成済みの国宝文化財データベースとをあわせて、3700件余りの国指定の文化財建造物に関する地理情報システムによるデータベースが完成したこととなる。 ・文化財建造物の立地条件の確認 大規模な活断層の近傍に位置する京都府、滋賀県、香川県等の国指定文化財建造物について、実際の立地条件を確認し、危険度評価のための参考資料を収集した。特に、京都市内の小規模な木造の重要文化財建造物で、断層崖付近に位置するものが見られたため、今後より多くの文化財について同様の調査を現地調査および航空写真等の地形判読により行うこととした。 ・最勝寺五重塔の地震危険度の評価 文化財建造物の地震危険度評価の具体例として、青森県弘前市所在の最勝寺五重塔について確率論的地震危険度評価および予察的な強震動予測を行った。津軽山地西縁断層帯が一括して活動して地震が発生するときに期待される最大加速度は、1kmメッシュの地盤増幅率を考慮して震度6弱と評価された(決定論的評価)。一方、ポアソン過程と周辺の全ての活断層を考慮した今後50年間に10%の確率で期待される震度は5程度となった(確率論的評価)。また、M7程度の地震を想定した非定常スペクトルの強震動予測評価(亀田・杉戸の方法)では、五重塔の固有周期の1秒前後で30〜50kineが予想された。
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