釉薬の外観は陶磁器の美術的評価にも影響を与える重要な要素の一つである。本研究は、出土陶磁器の外観に係る、釉薬の風化状態、光学的物性、保存修復処理材料の関連性に関する総合的研究であるという特色を有している。 本年度は、出土陶磁器表面の風化状態に関する基礎的データの蓄積として、以下の項目について重点的に研究をおこった。 ・陶磁器表面の風化状態の調査をおこなう 走査型電子顕微鏡など各種の顕微鏡及び各種エックス線装置や顕微鏡を用いて風化表面の形状観察や、釉層の厚さ、気泡などの陶磁器表面及び釉層の構造についての詳細な調査を行う。結晶等が観察される場合は、X線結晶構造解析により同定をおこなう。 ・陶磁器の胎土・釉薬の詳細な分析をおこなう 光学的物性は、釉薬の外表面だけではなく、釉薬と胎土の界面、釉薬自体の成分などの様々な光の挙動により変化する。そのため、X線を用いて陶磁器の胎土・釉薬の成分などの詳細な分析調査を行う。 光学的物性データの蓄積に際しては、全国から出土した実際の遺物を研究対象試料として用いている。実際の出土遺物を用いて調査研究を行うことにより、それぞれの遺物の状態に即した基礎的データの蓄積ができるということの意義は大きいといえる。 分析は破壊試験・非破壊試験の両方を併用して行うが、将来的な応用として非破壊分析法によって遺物の保存修復処理の指針を提示できるように、破壊試験で得たデータを非破壊試験に生かしていくことを考えている。
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