研究概要 |
本年度は主に,撫順特殊鋼有限公司と大連金牛有限公司が合併して誕生した遼寧特殊鋼集団有限公司を対象として,経営再編と企業立地の変化について検討した.分析に当たっては,沿海部の大都市に立地する大連金牛と,地方都市に立地する撫順特殊鋼では,経営条件や,地方政府からの協力にどのような差異が見られ,これらが両社の経営改革の進展と権力関係にどのような影響を与えたのかという点に着目した.その結果,大連金牛は(1)労働市場の流動性が高い大連市に立地していたため,人員削減や子会社・施設の分離といった経営改革を,1990年代後半という比較的早い時期から進めることができ,(2)不動産事業等の製鉄業以外の事業機会が存在したこと,(3)合併に際して市政府からの協力が得られたこと等の要因により,早くから経営改革に成功し,新会社での経営の主導権も得られた.一方,撫順特殊鋼は,上述の条件に恵まれず,経営改革の進展が遅れ,新会社での経営の主導権も失うことになった.具体的には,新会社の役員人事で大連金牛出身者の優遇が目立ち,販売子会社も大連側に集約される傾向がある.粗鋼等の生産部門については,大連側での環境規制の影響等があるため撫順側に集約されたが,撫順市でも環境規制は強化される方向にあり,製鉄用石炭の生産量が減少している撫順側に生産部門を配置するメリットは減少している.そのため撫順市からの重化学工業の流出と,雇用問題の深刻化が懸念されている.その一方で本年度は,中国の経済地理学の動向についての,方法論的な研究も行い,九州大学紀要の『史淵』にて発表した.
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