研究概要 |
中国東北地方の国有企業における人員削減の実態を検討するために,国有企業改革の進展に伴う経営戦略の変化やその地域的差異について,遼寧省撫順市の撫順特殊鋼と大連市の大連金牛有限公司が合併して設立された遼寧特殊鋼集団有限公司を事例として検討した。その結論として,経営改革の進展が遅れた撫順特殊鋼での人員削減や事業の整理が目立ち,販売部門も大連金牛側に集約されつつある.生産部門においても,製鉄用石炭の生産量が減少している撫順に生産部門を配置するメリットは減少している.そのため撫順市からの重化学工業の流出と,雇用問題の深刻化が懸念されていることが指摘できる.この研究の内容は経済地理学会編『経済地理学年報』にて掲載が決まり,現在は印刷中である。 これに加えて,雇用問題の深刻化について,撫順市住民に対する家計構造や社会保障,生活満足度,移民・出稼ぎ労働者の送り出しや滞留の状況に関するアンケート調査を行い,その実態を明らかにすることを試みている。その中間的な結論として,失業者世帯では,世帯構成員の2人以上が失業状態にある比率が高く,撫順市から比較的雇用条件が良い他都市に移住することも困難なため,雇用条件が厳しい撫順市に滞留する傾向が見られた。 また,これと平行して,研究の方法論や方向性について,より深く検討するために,中国の地理学会での研究動向について,中国語文献の講読を通じて把握し,その成果を,九州大学人文科学研究院の紀要論文として発表した。
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