北陸地方の山岳域の大気環境を評価するために、2004年夏期から秋期にかけて、富山県の立山において、微量気体成分(オゾン、窒素酸化物、二酸化硫黄)濃度、エアロゾル粒子粒径別個数濃度の測定および霧水・降水の採取分析を行なった。立山西側斜面の美女平(標高977m)では、夏期にはオゾン、窒素酸化物、二酸化硫黄共に、日中濃度が高く、夜間に濃度が低くなる明瞭な日変化を示した。これは、日中には下層の汚染物質が山岳斜面へ輸送されてくるためであり、その過程でオゾンが光化学生成されているものと考えられる。秋期になると窒素酸化物は夏期と同様の日変化を示したが、オゾン濃度の日変化が不明瞭となり、11月になると日変化はほとんどみられなくなった。この結果から、秋期においても、下層の汚染物質が日中に輸送されてくるが、日射が弱くなるため光化学反応が不活発となるためオゾンの生成が抑えられるためであると考えられる。また、11月には、二酸化硫黄濃度が数日間高濃度となる現象が観測された。同時に測定していたエアロゾル粒子個数濃度(微小粒子数)も高濃度であった。後方流跡線解析などから、大陸起源の大気汚染物質の影響を受けていた可能性が示唆された。 霧水を美女平および室堂平(標高2450m)で採取し、化学分析した結果、山頂に近い室堂平でしばしば強い酸性霧(pH<4)が観測された。室堂平では硫酸イオン濃度が高く、霧水を酸性化させているものと考えちれる。硫酸イオン濃度に対する硝酸イオン濃度の比は、美女平で高く、室堂平で低かった。美女平では、富山平野などの局地的な汚染の影響を受けているものと考えられ、室堂平では、国内の汚染の影響だけでなく、長距離輸送されてくる大陸起源の汚染物質の影響も受けていたものと考えられる。美女平では海塩起源物質の濃度が高く、ナトリウムイオンなどに明瞭な高度効果がみられた。また、室堂平において、カルシウムイオンが比較的高濃度で、黄砂粒子の影響を受けていたと考えられる試料もみられた。夏期から秋期においても「バックグラウンド黄砂」の影響を受けていた可能性も考えられる。2004年9月には、室堂平で集中観測を行い、霧水中の過酸化物濃度の測定も行なった。その結果、100μMを超える非常に高濃度の過酸化物も検出され、二酸化硫黄を硫酸へと酸化させる能力が充分高いだけでなく、植生への毒性も懸念される。さらに、春期には、室堂平において積雪断面観測を行い、層位構造等の観測や化学分析を行なった。
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