研究概要 |
平成16年度は,山梨県北杜市のダム湖とその流入出河川で炭素フラックスを定量化し,ダムによる流域炭素循環の変化を明らかにした.7〜12月に各河川とダム湖内で粒状有機炭素(POC)・溶存有機炭素(DOC)・溶存無機炭素(DIC)の流下量,総生産量およびCO_2・CH_4の大気への放出量(kgC/day)を測定した.その結果,利水供給に伴う河川流量の低下により湖から河川へ流出する炭素量が減少していることが明らかとなった.また,11月には湖へのPOC流入量が著しく増加した.炭素安定同位体比(δ^<13>C)はPOCが主に陸上起源であることを示しており,落葉期には450kgC/day以上の陸上由来Cが湖に蓄積していることを示していた.そこで湖内の炭素濃度をみると,POC・DIC・pCO_2・pCH_4ともに水温躍層下部で著しく高かった.また,DIC-δ^<13>Cは深水層の炭酸成分に陸上由来Cが多く含まれていることを示していた.このように,湖に流入した陸上有機物は深水層で炭酸やメタンへ分解されていると考えられた.そこで,CO_2・CH_4のガスフラックスをみると,ほぼ全ての月で湖面から大気へ放出されていた.その季節変化には湖水の上下混合や総生産が関わっており,生産が活発な7月にはCO_2放出量は少なく,深層水が上昇する11-12月の循環期にはCO_2・CH_4放出量が増加していた.調査期間中のガスフラックスの平均値は,CO_2とCH_4でそれぞれ33mmol m^<-2> d^<-1>および10.27mmol m^<-2> d^<-1>であった.このように本年度は,利水供給によりダム湖下流で炭素流量が大きく減少すること,また湖内に沈降する陸上有機物の一部は深水層でCO_2やCH_4に分解され大気に放出されることを示した.次年度は,このようなダムによる炭素フローの変化が水域の食物網構造に及ぼす影響を評価してゆく.
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