本年度は対象とする以下の水系において物質循環を特徴付けるための調査を行った。 ・春日川、新川水系源流〜下流において1mg/lを超える高濃度の窒素が存在した。これらの水系の集水域では雨が少ないため、大規模な窒素の濃縮が窒素循環に大きな影響を与えていることがわかった、一方、干潟域においては、伏流水中のアンモニア態窒素が0〜10cm深よりも50cm深で高く、1mg/l以上の高濃度で存在していた。このことから、河口堰で溜められた河川水の窒素は伏流水となって干潟へと流出し、藻類等の窒素源になっていることがわかった。 ・吉野川水系中流域はきれいな扇状地となっており、上流から下流にかけて徐々に人口や農地が増加する。窒素の濃度や同位体比は、集水域における人口の増加や農地の増大に伴って増加していた。この水系は河川に対する人為的な影響や生態系の浄化能力の相互関係を解析するのに良い対象であることがわかった。 ・琵琶湖-淀川水系-の無機態や有機物のδ^<15>Nは琵琶湖北湖で約7‰の高い値を示し、窒素が脱窒によって浄化されていることが示唆された。琵琶湖下流での、堆積物や水生生物のδ^<15>Nも高く、琵琶湖で生産された有機物の影響は淀川中流域まで及ぶことが明らかになった。また、水系内の水中の溶存CH_4濃度の分布は、琵琶湖流入河川の河口域において1000nM以上の高い濃度を示した。琵琶湖流域の河口域では明瞭な酸化還元境界が発達しており、この水系の物質循環を考える上で重要であることがわかった。 来年度は各水系において、物質循環を特徴つける研究に加え、生物を含めた生態系の構造を解析するための調査を行い、安定同位体比を用いた水系生態系解析のための方法について提言する。
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