研究概要 |
本研究では,企業や産業の自主的な環境対策が企業経営および自然環境に与える影響について明らかにすることを目的としている。ケーススタディとして,日本化学工業協会によるレスポンシブル・ケア・プログラムに焦点を当て,企業行動をステークホルダーとの関係で捉えることで,経営戦略や経営組織における活動の意義についての調査を試みた。 レスポンシブル・ケア・プログラムは1980年代後半以降,世界各国で実践されており,企業の自主的な環境対策としては参加規模が大きく,歴史も長い。そこで本年度の研究では,まず,海外諸国でのプログラムの実施状況について先行研究の調査を行い,日本におけるプログラムの効果と改善点に関して考察した。結果として,海外におけるレスポンシブル・ケア・プログラムの効果は一般的に小さいと考えられており,日本のシステムを海外のシステムと比較した場合,いくつかの追加的な問題点を抱えていることから,効果を高めるには制度の改善が望まれることが明らかとなった。具体的には,(1)レスポンシブル・ケアをリードしてきた海外諸国においては,産業団体への加盟時においてレスポンシブル・ケアの実践が義務化されているのに対し,日本ではレスポンシブル・ケアへの参加と産業団体への加盟は別の意思決定問題として扱われているため,業界団体のイメージが公共財としての性格を持ち,フリーライドが可能になっている,(2)取り組みに消極的な企業に対する制裁・産業内他社からの圧力が働かない制度となっている,(3)ステークホルダーとしてのコミュニティのリスク削減への認識と組織構築が不十分である等の問題があり,これらの改善が必要である。
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