研究概要 |
微小大気浮遊粒子に存在する変異(ガン)原性芳香族の大気環境動態の解明は健康影響評価に必要である。新規制対応のディーゼル機関の登場で規制対象物質排出が低減する一方,未規制物質排出増大が報告されており,ナノ粒子の排出も懸念される。生体影響の観点から重要となるガン(変異)原物質はPAHとニトロ化PAHが主寄与物質だが,未同定物質が多く,これらの化合物の同定,定量および大気中動態の解明が微小大気浮遊粒子の環境影響を考える際に有効である。本研究は微小大気粒子中の変異原性芳香族の大気生成や濃度変動等の動態に関する基礎的な知見を得ることを目的としており,今年度は以下の検討を行った。 大気の変異原性に寄与が大きい芳香族は微小大気浮遊粒子に存在するが,石英繊維濾紙+ポリウレタンフォーム(PUF)による既往のろ過捕集では粒子のろ紙通り抜けによる粒子中濃度の過小評価,気相濃度の過大評価,全大気濃度の測定精度低下が問題となる。そこで正確な大気中濃度の測定のため,捕集媒体の選定を含めたサンプラーによる捕集条件(時間分解能,捕集サイト等)についてアーティファクトがないように最適化を行った。すなわち,大気中で粒子相のみにあるジニトロピレン類について,既往のエアサンプラーを用い,石英繊維ろ紙とPUFの分配への大気吸引速度,捕集粒子量,捕集時気象条件の影響を検討し,微小粒子をろ紙上に捕集するための運転条件としては大気吸引速度500L/minで30分間以上捕集することが最適と決定した。この条件下で同時にPAHの減衰も追跡し,捕集時の分解や生成のアーティファクトがないことを確かめた。 大気ナノ粒子は捕集時にサンプラーに対しては空気動力学的に気体同様の挙動になる,すなわち,ろ過捕集では大気中のナノ粒子を捕集しきれない可能性がある。そこで気体捕集用環状デニューダーを装備した微小粒子の捕集に適したエアサンプラーによる捕集を行い,ニトロ芳香族について捕集の実際を検証した。しかしながら,市販の微小粒子捕集装置と既往のエアサンプラーでは捕集された試料の化学分析結果および変異原性試験結果に有意の差異は見られなかった。これはナノ粒子は発生したとしても大気中で速やかに凝集し,これまで観測されているものと同等のサブマイクロメートルレベルの粒子になるためと考えられた。
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