環境中や細胞内の様々な要因で生じるDNA損傷は、重要なDNA代謝反応の障害となり、細胞死やがん化の原因となる。細胞はそれらを防ぐために種々の防御機構を備えており、ヌクレオチド除去修復は極めて重要な役割を果たしている。近年、試験管内再構成系を用いた解析によりその基本反応が明らかになりつつあるが、細胞内での基本反応の修飾および制御に関する知見はほとんどない。特に、細胞内と試験管内系で大きく異なるのはDNAの構造であり、クロマチンの構造変換に関与する種々の酵素群が、細胞内のヌクレオチド除去修復反応で機能していることが予想されるが、その実体はまったく明らかではない。 本研究では、まずクロマチンレベルの修復への関与が疑われているDDBとの相互作用が報告されているヒストンアセチルトランスフェラーゼ(p300/CBPとGCN5)が、細胞内のDNA修復反応において機能しているか否かを明らかにするために、局所紫外線照射法により核の一部にDNA損傷を誘起し、蛍光免疫染色によりその局在性を解析した。しかしながら、ヌクレオチド除去修復の基本修復因子やDDBとは異なり、DNA損傷部位への集積は観察されなかった。また、上記のアセチルトランスフェラーゼの基質となるヒストンH3のアセチル化についても同様に解析したが、DNA損傷部位でヒストンのアセチル化が特異的に生じることはなかった。 また、DDBの機能を明らかにするために、DDBのサブユニットのうち自然に変異体が存在しないDDB1のノックアウト細胞の作成を目指し、ニワトリDT40細胞を用いてDDB1遺伝子のターゲッティングを行った。その結果、片方のアレルを欠損したヘテロ接合体細胞を得ることはできたが、ホモ接合体細胞を得ることはできなかった。現在は、DDB1の欠損が細胞レベルでも致死である可能性を考慮し、コンディショナルミュータントの作成を進めている。
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