核実験に由来する人工放射性核種のうち代表的なものとして、セシウム-137およびストロンチウム-90が挙げられる。これらは、ともに半減期が約30年と長いため現在も残留しており、食物摂取に伴う内部被曝が問題とされる核種である。日本におけるセシウム-137の降下量は1990年代を通して低水準で推移したが、2000年代に入り春季に増大するようになり、2002年3月には北海道や青森など北日本において顕著な降下が認められた。この現象は大陸からの黄砂飛来と関係があるとみられているが、セシウム-137を含む砂塵の起源となっている土地の詳細や、砂塵の発生メカニズムは明らかにされていない。そこで近年砂塵発生の中心地となっている中国北部やモンゴルにおいて現地調査を実施して、草原や砂漠、畑地の複数地点で表土試料を採取し、セシウム-137の分析をおこなった。その結果、草原の表土からセシウム-137が検出され、その放射能濃度は6.5〜83.5mBq/gと高かった。しかし砂漠土壌では不検出となり、畑地では不検出〜13.4mBq/gと低かった。セシウム-137が検出された試料について、さらにストロンチウム-90も測定し、それら核種の放射能濃度比を求めたところ、表土のセシウム-137/ストロンチウム-90濃度比は草原で8.3±2.0と高く、畑地では3.7±0.8と低くなり、明瞭な傾向が認められた。以上のことから、大陸の草原表土におけるセシウム-137の蓄積が明らかになった。またセシウム-137/ストロンチウム-90比を、大陸の土壌と日本における降下物の間で比較することにより、セシウム-137を含む砂塵の起源を特定することが可能と考えられた。
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