1.重粒子線照射によって生じたDSBの可視化解析 4℃に冷却したHeLa細胞に、重粒子線(炭素イオン、アルゴンイオン、鉄イオン)を照射した。直後に-20℃で固定し、dUTPをDNA末端に取り込ませて蛍光観察した。dUTPは、細胞核内においてフォーカスとして観察された。フォーカス数は計算上の各照射粒子数にほぼ一致した。以上の結果などから、重粒子のヒットにより複数のDSBが局所的に生じることを明らかにした。 2.重粒子線照射によるDSBに対する修復タンパク質の応答機構解析 (1)蛍光抗体染色により、DNA-PK、ATM、NBS1等のDSB修復タンパク質が、重粒子線の飛跡に沿って局所集中的に生じたDSBを認識して局在化することを明らかにした。重粒子線照射によって生じたフォーカスは、照射8-16時間後においても観察され、修復が困難であることが示唆された。さらに、鉄イオン照射2日後において、フォーカスを形成したままG2期に停止した細胞、細胞分裂異常を起こした細胞、リン酸化したヒストンH2AXを伴う微小核を持つ細胞などが観察された。 (2)DNA-PKcsの自己リン酸化部位のひとつThr2638に対するリン酸化部位特異的抗体を作成し、X線および重粒子線照射後のリン酸化をウエスタンブロッティングにより検出した。照射30分後のリン酸化レベルは、LETに従って高くなり、鉄イオンで最も高かった。DNA-PKによるXRCC4のリン酸化についても同じ結果を得た。以上から、LET依存的にDNA-PKの活性化が高まることが示唆された。一方、ATMの自己リン酸化部位であるSer1981およびNBS1等のリン酸化は、X線と重粒子線で顕著な違いは観察されなかった。よって、DNA-PKとATMでは、重粒子線によるDSBに対する活性化メカニズムが異なる可能性が示唆された。
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