研究概要 |
1.細胞生存率等を指標とした解析 非相同末端結合によるDNA2本鎖切断(DSB)修復において重要なDNA-PKの触媒サブユニット(DNA-PKcs)を欠損したヒトM059J細胞とそのコントロール細胞M059Kを用いて、重粒子線による細胞致死効果を、コロニー形成法により検討した。M059K細胞では、X線と比較して最大2.7倍の致死効果が得られたが、M059J細胞では1.9倍と顕著に低くなった。同様の結果は、活性阻害剤(Wortmannin, NU7026) をヒトHeLa細胞に添加した場合でも得られた。 次に、相同組換えによるDSB修復において重要なNBS1に変異を持つナイミーヘン症候群(NBS)患者由来細胞(以下NBS細胞)とNBS1cDNAを導入したNBS細胞を用いて検討した。NBS細胞は、NBS1導入NBS細胞に比べ、X線に対しては顕著に高い感受性を示したが、重粒子線では同程度の感受性であった。 以上の結果は、重粒子線によって生じる重篤なDSBは修復が困難であり、細胞致死効率を高める主な要因であることを示唆する。 2.DSB認識・シグナル伝達機構に関する可視化解析 HeLa細胞等を培養したスライドチェンバーを、重粒子線の飛跡方向に対してほぼ水平になるように配置して重粒子線を照射することにより、細胞核を平均1〜2個の粒子が横断する照射条件を確立した。この方法により、リン酸化したDNA-PKcsが、重粒子の飛跡に沿って生じたDSBに局在化することを明らかにした。さらに、X線を照射した場合、DNA-PKcsのリン酸化は、照射直後から認められるが、重粒子線の場合には、照射後時間が経過(1-8時間)するとともに徐々に蓄積されることを明らかにした。また、NBS1がDSB生成部位に局在化するためには、NBS1をリン酸化する毛細血管拡張性運動失調症の原因遺伝子産物(ATM) が必要であることを示した。
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