現在の化学は、10^<23>個ほどの分子同士を混ぜ合わせ、それら分子の偶然の衝突を契機とした化学反応プロセスが中心となっている。本研究はそのような大量の分子の混ぜ合わせというプロセスではなく、狙った単一分子のみに化学反応を起こさせ、新たなナノケミストリを開拓することを目標としている。 このナノケミストリには走査型トンネル顕微鏡(STM)を用いるため、表面上にあらかじめ分子を供給する技術の開発が不可欠である。本年度はC60やバッキ-フェロセンを蒸着する装置を作製してSTMに取り付け、Si(111)7×7表面上への蒸着を試みた。そして、この蒸着したC60同士を化学結合させることを目指した。 C60の蒸着は安定に実現できるようになったが、現状ではSi(111)表面とC60の相互作用が強すぎ、安定にC60分子間の結合を生成することができない。したがって、Si(111)表面上にまず銀を蒸着してSi(111)表面を不活性にし、C60とSi(111)表面の相互作用が少なくすることに取り組んでいる。 バッキ-フェロセンの蒸着では、蒸着可能温度範囲が非常に狭いことから、精密な温度制御が必要であることがわかった。今後、精度のよい蒸着法を確立していく。 本年度はナノケミストリの開拓に向けた土台作りという位置づけである。その土台はできつつあるので、次年度以降は、単一分子の化学反応を実現し、さらに、光を導入して分子レベルの光化学反応についても研究を進めていく予定である。
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