研究概要 |
研究代表者の以前の研究で,単一CdSe/ZnS/TOPO系ナノ結晶に光照射すると,突然数百ミリ秒程度の周期で激しく点滅し始めたり,その明滅の周期が段階的に増大したりする,ナノ結晶ごとに個性を持つ新奇な発光現象を観測した.この現象は,周辺の環境を敏感に反映するため,周辺環境プローブやメモリーとしての応用が期待できる.また,その発光明滅の原理を解明することで,単一ナノ結晶の発光制御の可能性も拓かれる.この特異な発光現象の原因追求のため,以下の項目を3年間で遂行する. 1.発光量子効率の高いナノ結晶の作製 2.単一ナノ結晶の時間分解発光測定系の構築 3.単一ナノ結晶の発光の時間強度変化の測定(CW励起,ミリ秒オーダー)及び発光の時間分解計測(パルス光励起,ナノ秒オーダー) 特に3.では,(a)光照射効果.(b)周辺環境依存性(c)結晶表面封止を行なう有機分子の種類やZnS積層膜厚に対する依存性.(d)ナノ結晶粒径依存性(e)温度依存性を調べることで,その原因究明を行う.本年は,1.結晶成長条件の最適化を行い,極微弱な単一ナノ結晶の発光を,室温で観測するために十分な,室温で60-80%という高い発光量子効率示すナノ結晶の作製に成功した.また,2.では,その準備として,マクロな試料の発光時間分解測定を行うための光学系を構築した.この構築は概ね終わり,現在テスト試料を用いて計測中である.3ではCW励起による(b)周辺環境依存性の測定から,水蒸気を含む雰囲気下において単一ナノ結晶に光照射を行うと,発光明滅が大幅に抑えられることが判明したため,その詳細な測定を行った.この結果は,ナノ結晶表面への水分子の光吸着が,ナノ結晶の発光に重大な効果を与えたことを示唆する.今後,この単一ナノ結晶の発光の時間分解計測を行うことで,単一ナノ結晶の発光に関する重要な知見が得られると期待している.
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