研究概要 |
一般に,単一ナノ結晶は,同条件で光励起し続けても,発光状態と非発光状態を不規則に繰り返す発光明滅現象を示す.本研究で用いたCdSe/ZnS/TOPO系ナノ結晶は,その高い発光量子効率や発光色の選択性の良さから,量子通信技術に必須である単一光子発生源や,医療・バイオの分野に欠かせない蛋白分子やDNAの蛍光ラベル剤としての応用が期待されるが,明滅現象現象は,発光素子としての性能を落とすものとして問題視されている. 一方,研究代表者の以前の研究にて,室温・大気雰囲気中で単一CdSe/ZnS/TOPO系ナノ結晶に光照射すると,突然数百ミリ秒程度の周期で激しく点滅を始めたり,明滅頻度が段階的に減少したりする,新奇な明滅現象を示すナノ結晶が存在することを見いだした.この現象の原因追求を通じ,明滅メカニズムを解明し,明滅の無いナノ結晶の開発へ向けた基礎データを取得するため,本研究では,単一ナノ結晶の発光明滅現象の時間発展,時間相関,発光寿命,スペクトル変化,及びそれらの周辺環境依存性の観測を試みた. その結果,特にナノ結晶の発光時間発展の周辺雰囲気依存性の測定結果にて,大きな成果が得られた.水蒸気を含む(あるいは,水分子と同じく極性を持つ)雰囲気下で,ナノ結晶に光照射を行うと,発光の点滅が抑制され,発光し続ける時間が飛躍的に増加することがあると判明した.以前の研究で観測した新奇な明滅現象は,ナノ結晶表面へ空気中の水分子が光吸着することに起因すると考えられる.得られた結果を総合すると,ナノ微結晶表面には,非発光状態を生み出す"荷電サイト"が存在し,そこに極性分子が光吸着し"中性化する"ことで,明滅が抑制されると考えられる.この結果は,発光明滅の抑制に向けた端緒となる重要な結果であると認められ,2006年6月に開催された単一分子の発光を主題とした国際会議(通称:HBSM)では招待講演に選ばれた.
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