研究概要 |
本研究は,スピングラスでは無数の秩序が多重に共存するという理論予測を検証し,そうした各秩序に対応するナノドメインに期待される特異な成長・縮退過程を利用した取捨選択機能を有する大容量多重記録の実現可能性を探ることを目指している.本年度は,典型的なスピングラス物質を用いて理論予測の検証をさらに進めるとともに,実用的に価値のある高い温度でスピングラス的性質を示す物質の探索を推し進めた. 1.典型的なスピングラス物質である銅マンガン希薄磁性合金を雰囲気制御アーク炉等を用いて作製し,その交流磁化率や磁化の緩和などの解析結果から等温及び温度摂動下でのスピングラスナノドメインの成長・縮退過程に関する液滴模型の妥当性を検討した. 2.この結果、理論予測の裏付が明確となりつつあるので,より磁気結合が強く高い転移温度が期待できるランダムネスをともなう強磁性体やナノグラニュラー磁性体においてスピングラス的性質の有無を調べ,いくつかの系でそのような挙動を捉えることに成功した. 3.また,磁性ナノ粒子がスピングラス同様のメモリ効果を持つとの直近の報告を検証するために,フェリチン中に隔離された超常磁性ナノ粒子を準備し,そのメモリ効果が見かけ上の振舞であることを示すとともに,理論グループと共同でその起源を明らかとした. 4.その他,本研究で得られた遅い緩和現象の解析技術は,磁性ナノ粒子やその集積系の性質の解明にも活かすことができた.
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