イソタクチック(it-)ポリメタクリル酸メチル(PMMA)およびシンジオタクチック(st-)ポリメタクリル酸の各溶液に交互に基板を浸すだけでステレオコンプレックス超薄膜が調製できるか否かを検討した。平らなモデル基板として9-MHzの基本振動数を有する金電極の水晶発振子(QCM)を用い、各溶液に浸しリンスした後に気相中でQCMの振動数減少量を測定した。得られた振動数減少から、Sauerbreyの式に従い積層重量を定量的に解析した。溶媒種、調製温度、高分子の分子量、立体規則性、分子量分布などの膜調製条件を変化させながら、ステレオコンプレックス超薄膜を調製した。ステレオコンプレックスの形成は反射型X線回折および全反射赤外吸収スペクトルにより、逐次積層の有無は動的および静的接触角測定により、膜表面の凹凸度は原子間力顕微鏡により、それぞれ観察した。最終的に、目的の会合形態や膜厚を有するステレオコンプレックス超薄膜が、整理された条件の中から様々な基板上に短時間かつ普遍的に調製できるようにした。 次にタンパク質としてアルブミン、フィブリノーゲン、フィブロネクチン、各種抗体を選択し、様々な化学構造を有するステレオコンプレックス超薄膜表面への物理吸着挙動について、QCM法により定量的に解析した。タンパク質濃度を変化させることにより吸着等温線を得て、見かけの吸着定数と最大の吸着量を算出した。吸着固定されたタンパク質の構造変性の有無について、アミド領域の赤外吸収スペクトル変化から詳細に検討した。ステレオコンプレックスに対して、タンパク質は変性することなく、ソフトランディングすることが明らかになった。
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