原子レベルの分解能を持つ磁気顕微鏡の開発はナノテクノロジーの発展になくてはならないものである。ナノオーダーの磁気顕微鏡としては光電子顕微鏡(PEEM)やスピン偏極走査トンネル顕微鏡(SP-STM)がある。PEEMは放射光が必要であるため、実験室レベルでの測定ができない。また、分解能の限界は100Å程度とそれほど高くない。SP-STMは実験室で可能かつほぼ原子レベルの分解能(数Å)を持つが、STM短針が完全に制御できないことが原因で、検出スピンの方向に関する明確な情報を得難い、再現性を得難いなどの点がある。 我々はレーザーによる光電子放出とトンネル現象を利用した新しいSTMを考案した。この原理ではレーザーの偏光と表面スピンの方向との間に明確な関係が成り立つことが予想され、スピンの方向を決定できる。また、原子分解能も期待できると考えている。 本年度はおもに1)極低温STMの立ち上げ、2)試料作成槽の製作を行なった。 1)STMにて試料は10Kまで冷却可能である。室温および10Kにて安定に動作するように2重の除震機構の取り付けおよび熱シールドの補強にて温度安定性について対策をした。これらにより原子分解能での測定が可能となった。しかし、STM測定はかならずしも日常的に安定に動作するにはいまだ至っていないのが現状である。 2)試料作成槽では金属表面のArスパッターおよび加熱(〜1000K)による清浄化ができる。清浄化した表面に原子レベルで磁性薄膜を作製するために、蒸着源および蒸着モニターを設置し、また生成した磁性薄膜の質を簡単に観察するための低速回折装置も設置した。この準備槽により、高純度の磁性薄膜を生成できる。また、薄膜全体の磁化測定には磁気光学Kerr効果測定を利用することもできる。
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