異なる機能がプログラムされた3つの部分、シャフト分子、カバー分子、およびターミナル分子から構成される分子ワイヤを合成した。シャフト分子はπ共役分子であり、分子ワイヤの導線分子である。α-CDはσ結合のみで構成されているため絶縁体として働くと同時に、被覆した分子を直線状に保つ機能を持つ分子(カバー分子)と考えられる。さらに、カバー分子で被覆されたシャフト分子を金属電極と金・チオール結合で接続させるπ共役分子(ターミナル分子)としてチオールベンゼンを導入した。分子ワイヤの合成は、鈴木カップリング反応を用いて合成した。超遠心質量分析の結果、分子量は16200であることから、主生成物の重合度は10であると考えられる。 合成した分子ワイヤの水溶液をマイカ基板上に展開して、AFMで観測したところ、平均分子長は23nm、42nmであり、分子の高さは0.6〜0.8nmであった。α-CDの外径が約1nmであり、また超遠心質量分析の結果を考慮すると、観察された分子ワイヤの重合度は10であり、分子は直線形であることが示された。 合成した分子ワイヤの電気伝導を測定するために、SiO_2基板上に20nmの電極間距離を持つナノ電極を、電子線リソグラフィーにより作製した。ナノギャップ電極上に分子ワイヤの水溶液を滴下して、交流を印加することで、分子をナノ電極間に架橋した。分子を固定する前は、1Vで測定限界以下の電流値しか得られなかった。分子を固定させた後、室温で測定したところ、原点に対称な電流-電圧曲線が得られ、1Vで2nAの電流値が得られた。次に、77Kまで冷却して、I-V曲線を測定したところ、原点に対照的なI-V曲線が得られたが、1Vでの電流値は室温の10分の1の0.1nA程度であった。77KにおけるdI/dVを計算すると±0.5V付近でギャップが開いていることが確認された。分子軌道計算の結果を考慮すると、HOMOと電極の電子状態は化学結合により接続されているものの、伝導機構はトンネリングよりホッピング伝導が支配的であると考えられる。
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