電極と化学結合するチオールを両末端に持つ分子ワイヤの合成は、困難であったため、昨年度合成したシクロデキストリンで被服された分子ワイヤから、シクロデキストリンを分解して被覆されていない分子ワイヤを合成した。 シクロデキストリンに被覆された分子ワイヤと被覆されていない分子ワイヤの電気伝導特性を20ナノメートルの電極間距離を持つナノ電極を用いて検討した。ナノ電極は、電子線リソグラフィーとリフトオフ法を用いて作製した。電気抵抗の温度依存性を調べたところ、被覆されていない分子ワイヤの伝導機構は、3次元のvariable range hopping(VRH)に従うホッピングであった。一方、被覆された分子の伝導機構は、1次元のスモールポーラロンホッピングであった。この結果は、被覆されていない分子ワイヤの伝導では、分子間のホッピングが支配的であるのに対して、被覆されている分子ワイヤでは、分子内のホッピングが支配的であることを示している。 さらに、酸化シリコンをゲート絶縁膜とした電界効果トランジスタ構造を作製し、被覆された分子と被覆されていない分子のデバイス特性を調べた。被覆されていない分子ワイヤは、典型的なpタイプ-エンハスメント型のトランジスタ特性を示したが、被覆された分子ワイヤは、トランジスタ特性を示さなかった。これは、被覆された分子ワイヤではπ電子系が絶縁体であるシクロデキストリンで被覆されているため、π電子系に効果的に電界が印可されず、キャリアの誘起が生じなかったことが原因と考えられる。π電子系をシクロデキストリンで被覆することにより、電気伝導機構を変化させ、また、デバイス特性を変えることができることを明らかにした。
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