研究概要 |
本研究の目的は、住宅ローン事情のプリペイメント・モデルおよびMBSの理論価格モデルを金融工学的見地から研究・構築することである。 今年度の主な成果は以下の通りである。 1.正田 智昭氏との共同研究によって、プリペイメント・コストが時間とともにランダムに変化しうる拡張モデルを構築し、そのモデルの数理的性質の考察およびシミュレーションによる数値実験を行った。 具体的には、各ローン債務者のプリペイメント・コストの分布が、マクロな情報と共通の観測不能なリスク(Loan Pool Risk,以下LPR)を所与としたときに条件付き独立になるという仮定のもとで、プリペイメント分析のコアな概念となる条件付き非プリペイメント確率およびLPRの事後分布を計算した。また、それをもとにプリペイメント発生時刻の条件付き同時分布やMBSの理論価格式を導出した。 数値実験では、債務者のクラス分けという概念を導入して本質的な計算量の軽減を行った。また、市場データの入手が困難なため、プリペイメントのデータをモデルに基づいてシミュレーションにより生成し、モデルの含むパラメータの推定およびLPRのフィルタリングを行い、モデルの有効性を確認した。 この研究に関しては、国内外の学会・研究集会で計8回の発表を行い、発表時の討論等を受け、平成16年12月に"Analyses of Mortgage-Backed Securities Based on Unobservable Prepayment Cost Processes"という共著論文を作成し投稿を行った。また、相互依存性のモデリングを中心に資料収集も積極的に行った。 2.債務者の効用関数最大化の観点に基づいた、部分的なプリペイメントも含む最適なローン返済戦略の研究については、国内で2回発表・討論を行った。 プリペイメントの種類による経済的効果の違いを反映させて、離散時間および有限な選択肢を持つ基本的な効用最大化モデルの設計を行った。
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