本研究の目的は、突然変異、高頻度組換え点、機会的遺伝的浮動、正の自然淘汰によって、連鎖不平衡ブロックが誕生するパラメタ条件(集団サイズ、突然変異率、組換え率、淘汰係数など)をコンピュータシミュレーションにより明らかにすることであった。また、マラリア抵抗性により正の自然淘汰が作用してきたと予想されている、ヘモグロビンβ遺伝子のHbE変異の近傍領域のゲノム多様性をタイ人集団において調べ、HbE変異がゲノム多様性および近傍領域の連鎖不平衡形成に与えた影響について解明するとともに、HbE変異が正の自然淘汰を受けてきた可能性やその変異の誕生時期についても考察した。推定された誕生時期は、およそ2000年前であり、HbE変異が他の多型よりも連鎖不平衡領域が長いことも確認した。さらに、コンピュータシミュレーションを通して連鎖不平衡ブロックの誕生理由を解明しようと試みた。連鎖するn個のSNPマーカーを想定し、突然変異率とSNP間の組換え率をパラメタとするものである(無限対立遺伝子モデルを採用する)。シミュレーション結果は、申請者が開発したLDfinderというソフトウェアを用いて種々の連鎖不平衡係数を計算し、連鎖不平衡ブロックの探索と解析を行った。通常のヒトゲノム領域で観察される組換え率を想定してシミュレーションを行ったところ(高頻度組換え点の存在なしに)、連鎖不平衡ブロックが偶然によって形成されている可能性を確認することができた。
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